株式会社創喜・山田昇平さんの密着取材4日目。
共同住宅を見学したあと、続いて案内されたのは、お姉さんと妹さんご夫婦の二世帯住宅の室内です。
この建物は単なる二世帯住宅ではなく、家族の記憶を引き継ぎ、姉妹の暮らし方の違いをカタチにしています。
記憶を引き継ぐ、懐かしい住まいへ

玄関のドアは二つ。
お姉さん用が右側、妹さんご夫婦用が左側です。
まずは足を踏み入れたのは、お姉さんの住まい。
玄関で目に入ったのは、障子の小窓でした。
それは、建て替え前の母屋で使われていた建具でした。

お姉さんの住まいは、旧宅の窓や欄間(らんま)、床の間、床柱を丁寧に取り外し、新しい家へ移築するという大掛かりなプロジェクトによって実現しました。
旧宅は、お施主さんが生まれ育った実家であり、築100年近い歴史を重ねてきた住まいでもあります。
近年、古材を活かす古民家カフェなどは増えていますが、住宅にここまで本格的に取り入れるのは、関東圏では珍しい試みだそうです。
山田さんは、その理由をこう話します。
「旧宅の建具などを使用しているのは決して自己満足ではなく、お施主さんの『持って行きたい』という想いを叶えてあげたかったからです」

新しい住まいだからすべてを新しくするのではなく、お施主さんの想いが込められているものをアレンジして活かす。
山田さんの家創りの手腕があらわれていました。
新しいのに、懐かしい
和室に入ると、障子越しのやわらかな光に包まれ、まるで昭和にタイムスリップしたような空気が流れていました。

しかし不思議なことに古さは感じません。
新しいのに懐かしい。
丁寧に手入れされた老舗旅館のような、静かな品格があります。
その理由は、単に昔の建具を使っているからではなく、寸法や素材のバランスが慎重に整えられているからでしょう。
記憶を引き継ぎ、まるで昔からそこにあったように美しく納まっています。
天井近くに風通しや採光確保のために設けられた「欄間」は、鶴や松が彫られ、格式高い風格を感じさせます。旧家から取り外した際には補修が必要な状態だったため、神奈川県内の業者へ手あたり次第に連絡を取り、ようやく修復を担う方が見つかったそうです。丁寧に補修を重ね、よみがえらせたといいます。

和室の高さを決めることになった「床の間」と「床柱」。

いまでは作れる人が少なくなった貴重な「昭和板ガラス」には、植物の模様が凹凸で表現されていて味わいがあります。

私が初めて見た「仏間の扉」。


それらに合わせた、深い緑色の壁やふすまは、まるで元からそこにしつらえてあったかのように自然なたたずまいです。

過去と現在が違和感なく調和した美しい和室になっていました。
「なんかいいよね」でいい
山田さんの「整ったねー」の言葉が和室に染み込んでいくようです。
「ちょっと懐かしい感じがしませんか?日本人にとって、こういう和室は理屈じゃなく落ち着くと思います。“なんかいいよね”でいいと思うんです」
設計としての正確さはもちろん、感覚としての心地よさも大切にする。
「僕は昔ながらの日本家屋で育ったので、感覚ではわかります。実際カタチにしていくときに何ミリ上げるかなど細かな調整を行ったのは、イケなんです」


イケさんとは、山田さんと共に家創りをおこなう、創喜の池崎美貴さんです。
伝統的な空間を現代の暮らしに合わせて数ミリ単位で整えていきました。
家をつなぎ、技もつなぐ
この現場は、建物だけでなく職人さんの技術の継承の場でもありました。
和室の施工を担ったのは親子の大工さん。
経験豊富な父と、技を学びながらカタチにする息子さん。

世代を超えて受け継がれる技術が、この住まいの随所に息づいています。
「家創りは、僕らだけではできません。想いを受け取って、『もっと良いものにしてやろう』と思ってくれる大工さんじゃないとここまでものにはなりませんでした。仲間に恵まれていて、とてもありがたいです」と感謝を口にする山田さん。
家を創ることは、文化をつなぐことと山田さんは言います。
「現代は、“つなぐ”ことがなくなってしまった社会構造だと思います。かつては職人さんの技術も受け継がれていくものでしたが、利益を極端に追求する高度経済成長で技術の継承が薄れてしまっています。
今回、想いや技をつなぐ家創りに関わることができて、僕らにとってもうれしかったですね」
対照的なもう一つの暮らし
妹さんご夫婦の住まいは、お姉さんとは対照的なモダンな空間です。


1階の部屋は、扉を開けると一直線でつながり、暮らしやすい動線になっています。

2階の妹さんのご主人の部屋は、造作棚と木製ブラインドによって、穏やかで落ち着いた印象の空間になっていました。

同じ建物の中にありながら、暮らし方に合わせて空間の表情が変わる。
家族という単位を一括りにせず、それぞれの暮らしに合わせた家創りです。
1年で完成した理由

旧宅の解体から完成まで、賃貸住宅と二世帯住宅を合わせてなんと1年足らず。驚きのスピード感。
「振り返ると、たぶん凄いことなんだと思います。誰も褒めてくれないけど」と笑いながら山田さんは語ります。
「お施主さんが一番知りたいことは、『いつ家に戻って来れますか?』なんです」
長らく住んできた家を壊して「建替える」という依頼を受けるときは、ただ「建てる」という仕事とは少し異なってきます。
片付け、引っ越し、仮住まい、生活の移行まで含めた大掛かりなプロジェクトです。
その全体像を見渡し、逆算して進めることができる人は意外と少ないといいます。
山田さんの家創りには、常に“ゴール”が見えています。
その視点があるからこそ、工夫が生まれ今回のようなスピードを実現できたのだと感じました。
記憶をつなぎ、一つひとつを積み重ねて住まいとしてカタチにする。
山田さんの家創りのあり方を実感した一日でした。

おいしいおうち運営会社:株式会社創喜
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