天城高原で引き継ぐ叔母の夢。想いをつなぐ相続のカタチ

「完成間近の別荘で、最後の外構工事をおこないます」

株式会社創喜の代表取締役・山田昇平さんから連絡が入り、急きょ現場へ向かいました。

場所は、静岡県伊豆市の天城高原。

標高約1,000mの澄んだ空気の中、斜面にすっと姿をあらわした別荘。
それは、お施主さんが叔母さんの想いをカタチにした一棟でした。

標高1,000m。空気が澄みわたる天空の高原

伊東駅からバスで40分ほど。住宅地を抜けると、次第に木々が増えていきます。

(キャプション)標高約1,000m、天城高原の急斜面に広がる冬の樹林風景

降り立った地は、天城高原。
高度経済成長のまっただ中だった1961年ごろから、別荘地として売り出された場所でした。

空気は凛と澄み、鳥たちのさえずりが響きます。
落葉樹林のため、冬の木々は枝だけ。まるで寒さを耐え忍んでいるようです。

地上より5度ほど気温が低く、緑あふれる夏には避暑地として人気だとか。
私が訪れた冬は、夜空にまたたく星がとてもキレイでした。

木々の中に、ポツリポツリと建つ家々。
中には、朽ちた家も見られます。

別荘地として売り出された一帯ですが、手つかずの土地も多いそう。
なにせここは高原。ほぼ斜面なのです。

バスを降りて山田社長と合流し、まずは今回取材する現場へ。
土からにょきっと生えているように見えたのが、その家でした。

(キャプション)全面が傾斜する敷地条件に合わせて設計された住まい

現場をつなぐ人。立ち位置は「潤滑油」

現場では、3人の職人さんがテラスやバルコニーの鉄骨による外構工事を進めていました。

(キャプション)鉄骨工事を担う職人さんたち

前日は、大型クレーンで鉄骨を設置する、危険の伴う作業が行われたそうです。

(キャプション)取材前日に行われた、大型クレーンを使用した鉄骨工事

(キャプション)鉄骨の脚部をボルトで締める作業

雪の多いこの地では、まず朽ちてしまうのが木製のバルコニー。
そのため、バルコニーやテラス、アプローチにいたるまで、外構部分には鉄骨を使用しています。

鉄骨の枠にはめるのは「グレーチング」と呼ばれる格子状の樹脂デッキ材。雨水も下に落ちるよう工夫され、雪や雨の多い環境でも劣化しにくい仕様です。

(キャプション)格子状が特徴の樹脂デッキ材「グレーチング」

「家自体の施工は伊東市にある工務店にお願いしていますが、外構工事だけは、いつも一緒に仕事をしている海老名の鉄骨チームなんですよ」と山田社長が教えてくれました。

創喜さんは、企画・設計から施工、工事監理、予算管理まで一括して請け負うのが基本のスタイルです。ただし、今回のような遠方の場合は、その形にこだわらないこともあるといいます。
「お引き渡しのあとに何かあったとき、すぐに駆けつけられる距離かどうか。それは大事にしています」
今回は伊東市という土地柄もあり、施工は地元の工務店に依頼。その一方で、外構の鉄骨部分は、長年信頼関係を築いてきた職人さんたちに任せているそうです。
職人さん同士が意見を交わす中、山田社長がバランスを取るように話をまとめていたのが印象的でした。

(キャプション)おさまりを調整するために話している山田社長と鉄骨工事の職人さんたち

山田社長は、自分のことを「潤滑油」だと表現します。

「僕は、みんなが円滑に作業できるようにする、潤滑油みたいな存在ですね(笑)」

そう話しながら、道ばたの大きなブルーシートをまとめたり、段ボールを手際よく紐でくくったり。普段は現場監督が担う役割を、さらりとこなします。

企画、設計、施工、資金、行政手続き。
それに、現場の片付けや掃除まで。

山田社長は、家創りに関わるすべてを“つなぐ人”なのだと感じました。

傾斜地と向き合い、水平を生み出す

この土地に平らな場所はありません。

横から家を見ると、全面が傾斜地に建っていることがはっきり分かります。
実際に地面を歩いてみると、斜面どころか急斜面。私は思わず尻餅をついてしまいました。

(キャプション)斜面に設置された仮設階段を、何往復も行き来する山田社長

「家創りは、水平を出すこと」

そう話す山田社長は、水平を出す機械「レーザー墨出し器」を使い、家の前の駐車場と鉄骨のアプローチの高さを慎重に測っています。

(キャプション)「レーザー墨出し器」を使い、水平を確認する

どうやら水平をつくるための処理が必要な様子で、山田社長はしばらく考え込んでいました。

「問題が起きたとき、解決方法はいろいろあります。何を選ぶかは、好みの部分もありますね」と山田社長。

職人さんと話し合いながら、解決の糸口を見つけたようです。

(キャプション)アプローチに板金を取り付けて水平に

斜面を味方に。スキップフロアの住まい

アプローチの鉄骨取り付けも完了し、いよいよ室内へ。
玄関に入ると、まず目に飛び込んできたのは短い階段でした。

斜面の土地を生かし、床の高さを半階分ずつずらしながら、階段でつなぐ「スキップフロア」になっています。高低差をそのまま室内に取り込むことで、限られた面積でも空間に広がりが生まれます。

まずは2階のリビングへ行くと天井は吹き抜けで、とても高く感じます。シーリングファンが備え付けてあり、別荘感が漂います。

(キャプション)天井高のある、吹き抜けのリビング

リビングの大きな窓から見えるのは、美しい富士山。

(キャプション)リビングの窓から見える富士山の風景

ダイニングにテーブルを置いて、食事をしながら絶景を眺める……。
リビングのソファに座って、刻々と移りゆく夕暮れの表情に見惚れる……。

そんな時間を想像するだけで、「ここに住みたい!」という憧れの気持ちが湧いてくるのでした。

(キャプション)キッチン前にも設けられた窓。料理をしながら景色も楽しめる

いつも、富士山とともに

そしてお風呂へ。

「お施主さんの『お風呂から富士山が見たい!』という願いを叶えるために、まず、お風呂から決めました。富士山が見えるように、窓は規制の中で最大限の高さにしています。

今は富士山が見えますが、最初は木々で全く見えませんでした。方角の確信はありましたが、実際に木を切って富士山が見えた時は、正直ホッとしましたね。木は根元から切るのでなく、上の部分だけ切り落としています。自然と馴染むように、伐採は最小限にとどめています」

湯船に浸かりながら富士山を眺める時間は、きっと至福のひととき。
しかもこのお風呂、温泉が出るそう。まさに夢のようです。

雑木林しかなかった土地に、何年もかけて国立公園の厳しい規則をクリアして、お風呂から富士山が見える家を創った山田社長。
こんな想いのある会社が増えれば、たくさんの人が家を建てて幸せになれるんだろうと感じます。

(キャプション)木は根元からではなく、頭頂部のみを伐採して景観に配慮

窓枠は額縁、風景を絵画に

最上階にはロフトがあります。
天井が低くても、広がりを感じる空間です。

シーリングファンが目の前でくるくると回り、空気の流れをつくり、家全体の温度を均一にしてくれます。

頭をぶつけないように気をつけながら、小さな窓がある奥の部屋へ。

「ここからも富士山が見えますよ」と山田社長。

窓枠は、まるで額縁。
誰にも描くことのできない、富士山の絵を見ているようです。

眺めていると、内と外の境界線は薄れ、家の中と富士山がつながっていくようでした。

叔母の夢を引き継ぐ相続。未来へのバトン

この土地はもともと、お施主さんの叔母さんが購入した場所でした。

欲しくて手に入れたというより、ある日、突然手に入ってしまった土地。
場所が場所なだけに、何年も手つかずのまま、ただ時間だけが過ぎていったそうです。

天城高原のことを聞いた当初、山田社長は「家を建てる」という選択肢を思い描いていなかったといいます。

「話を聞いた段階では、2割は建てる、8割は無理だと思っていました。でも現地に行った瞬間、この土地は生まれ変わる!と確信したんです」

土地を見ただけで家のイメージが浮かんだというから驚きです。

「叔母さんから相続した土地だからこそ、お施主さんは想いをつなぎたいのだろうと感じました。お施主さんだけだったら建てることにはならなかったかもしれません。いつも現場に一緒に来る妹さんや、そのお子さんもいます。いずれ誰かが、この土地を相続する。だから僕らが“家”というカタチにしました。叔母さんの夢をカタチにしたのだ思っています」

最初は雑談のように始まった相続の話が、今、目の前にカタチとなってあらわれています。
山田社長は「お施主さんに経験をさせてもらっている」と話します。

天空の別荘、完成

途中、車を走らせて沼津にある「静岡県建築住宅まちづくりセンター」へ。

(キャプション)静岡県建築住宅まちづくりセンターでサインをする山田社長

無事に「検査済証」を受け取り、とんぼ返りで再び現場へ向かいます。

すでに作業は終わっていましたが、現場には、まだ職人さんたちの姿がありました。

何か問題が起きたのでしょうか?

「確認、お願いします」

職人さんが山田社長に声を掛け、そこから一つずつ、丁寧に最終確認が始まりました。

時折、「うんうん、良き良き」と独り言をつぶやく山田社長。
その声が、どこかうれしそうに聞こえました。

完成です。

「お疲れ様でした」

そう言葉を交わす、チーム「おいしいおうち」。
現場には、不思議とあたたかな空気が流れていました。

数日後には、お引き渡し。

きっと空の上から、叔母さんもこの景色を眺めて喜んでいることでしょうね。

おいしいおうち運営会社:株式会社創喜
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