密着取材Day1-4
相続から施主と伴走。上棟で見た山田社長の仕事の流儀。安心して長く暮らすために

生麦の共同住宅「GOAT HOUSE」の現場を後にして、私たちは朝いちばんに訪れた保土ヶ谷の一軒家へと戻りました。

午前中は基礎の上に柱が組み上がり始めたところでした。

夕方に戻ってきて、どこまで家のかたちができあがっているのか、ドキドキしながら現場へ向かいます。

一日で家のカタチになった現場

到着すると、目の前にはまるで違う光景が広がっていました。

大きな敷地の真ん中に、何本もの柱と梁が組み上がり、家の輪郭がくっきりと浮かび上がっています。

一日で家の形まで組み上がった現場

「朝からここまで一日で組み上がるんですね……!」

思わず漏れた私の声に、山田社長が笑いながら答えます。

「ね、びっくりするでしょ。骨組みさえできてしまえば、あとは服を着せていくだけなんですよ。」

国産ヒノキを使った骨組みは、柱1本1本がすっと空に向かっていて、凜とした空気をまとっていました。

奥へ歩くと、すでにお施主さん姉妹とご家族が到着して現場を見ていました。

2階に上って組み立て状況を確認するお施主さん姉妹とその姿を見守るわたし

ここに暮らすのは、お姉さまと、妹さまご夫婦の二世帯。

約100年続いた旧家を解体し、それぞれが新しく暮らす場を作っていると、朝の打合せで聞いていました。

そんな背景を知っているからか、まだ壁も屋根もない骨組みの家が、とても尊いものに思えてきます。

近隣への配慮も。17時前には音を止める

時刻は16時過ぎ。

現場では、棟梁とその仲間の大工さんがこの日の最終工程となる屋根の下地「野地板」を固定する作業に入っていました。

最終仕上げをおこなう大工さんたち

上棟は、何人もの大工さんが動き回り、一日中にぎやかな音が出ます。

「17時を過ぎると、どうしても音が響きすぎちゃうんです。だから、このくらいの時間で区切るようにしています。」

周囲の家に手を向けながら、池崎さんが教えてくれました。

近隣との関係を良好に保つことで、その後の工事も暮らしも気持ちよく進めることができるそうです。

組みあがった家と共同住宅と近隣の住宅

創喜では、必ず山田社長自身が着工前に近隣へ挨拶をおこなっているそう。

私は営業担当や工務担当が挨拶をすると思っていたので、
「代表が挨拶回りするなんて珍しいですよね。」
と聞くと、山田社長は
「うちは規模も大きくないし、自分で行くのが一番早いんですよ。」と笑っていました。

近隣の方は「え、社長さんが来たんですか?」とびっくりされることも少なくないのだとか。

「ここで工事させてもらうんだから、一番最初に挨拶するのは僕の仕事だと思ってます。」
と山田社長は当然のように言いますが、それができる人は多くないのではないでしょうか。

設計から工事、引き渡しまで、家づくりのすべてを「自分ごと」として動いているからこそ、関わる全ての人との細やかな関係づくりができているのだと感じました。

五感を使って現場で確認するのが山田社長の流儀

作業を終えた大工さんたちと入れ替わるように、山田社長は柱の間をゆっくりと歩き始めました。

玄関、リビング、キッチン……

「打合せや進捗確認を含めて、週に2~3回は現場に来るようにしています。」

山田社長はそう言いながら要所要所で立ち止まり、棟梁やお施主さんと状況を共有していきます。

想いを語る山田社長

「図面だけ見ていても、やっぱり分からないことが多くて。ここに柱があると邪魔にならないかとか、ここから光が入るかとか。PCの画面じゃ想像しきれない部分は、自分の体で感じないと。」

山田社長は、不動産の相談から始まり、資金計画、設計、施工の段取り、現場の監督、そして引き渡し、完成後の入居までお施主さんと伴走していきます。

はじめから直に接しているからこそ、お施主さんが家づくりに関わっている数か月間、どうすれば不安を感じることなく、安心して楽しめる時間だけを創りだせるのか、言葉や紙面では伝えきれないものを山田社長自身が五感で確認しているのだろうと感じました。

家づくりに携わるものとして、文化を引き継ぐ

山田社長がボードの上でなにやら作業を始めました。

「これ、知ってる?」

山田社長が見せてくれたのは、扇に鶴や松が描かれ、赤白の紙などが付いた縁起の良さそうな飾り。

関東の都市部ではあまり見られなくなった幣串

これは幣串というもので、棟上げが無事に終わったことへの感謝と、建物が無事に完成することを祈願して飾るそうです。そして完成後は家の守り神として家内安全や魔除けのために用いられるものだそう。

こんな立派なものを飾るんだ!と驚く私を見て、

「どうせやるなら、ちゃんと形にしてあげたいじゃないですか。この家が大きいからこれくらいのサイズじゃないと……(笑)。」

山田社長は笑いながら話してくれました。

弊串を準備する山田社長

棟梁と山田社長が相談し、
「完成時には屋根の中に納めるとして、今日は2階の中心に据えよう」
という判断になりました。

棟梁が慎重に脚立へ上り、2階の中央に幣串を取り付けていきます。

山田社長と棟梁で幣串を取り付ける様子

「もう少し左……いや、ほんのちょっとだけ右かな。」

幣串の角度を見ながら、山田社長が声をかけます。

その傾きを確認するのは山田社長。
取り付けるのは棟梁の役目。
職人としてのこだわりを感じます。

「はい、これでよし。」

山田社長がやわらかくそう言うと、家の中に魂が宿った、そんな感覚を覚えました。

お清めに込める思い。家づくりはただの買い物ではない

続いて山田社長は
「では、お清めの儀式をやります。」
とその場にいる方々に声を掛けました。

お清めとは新しく建てる家の四隅を回りながら、土地と建物を清め、工事の安全と家族の暮らしの無事を祈るための昔ながらの風習だそうです。

山田社長が準備していたのは、塩、お米、そして日本酒。

山田社長が、建物の四隅の位置をひとつひとつ確認しながら、お施主さんを案内していきます。

お清めの説明をする山田社長

お施主さんのお姉さんがお塩、妹さんがお米、そして棟梁が日本酒を持ち、お清めしていきます。

「じゃあ、ここが1カ所目ですね。お塩、お米、日本酒の順番に。」

山田社長の説明に合わせて、お姉さんが塩と米をひとつまみずつ、そっと隅に置きます。

お清めをするお施主さん

続けて、棟梁が日本酒をすっとたらします。

お清めをする棟梁

山田社長は、その横で笑顔で見守っています。

「建売では、こういう光景はまず見ないですよね。」

山田社長が笑いながら言いました。

確かに、家を購入するだけの建売住宅では、この体験はできません。

ゼロから家をつくる人だけが味わえる、ものすごく特別な瞬間です。

「昔は棟上げのあとに酒盛りしたり、寿司を囲んでわいわいやったんですよ。」

山田社長が、少し懐かしそうに話してくれました。

昔は上棟後に地域ぐるみで直来(なおらい)という宴席があったそうですが今ではほとんど行われなくなったそうです。
「地域によっては建ったばかりの家の周りに近所の方に集まってもらい、上棟後の家から皆さんにお餅をまいたりする場所もあります。家が出来ることをその周辺に住む方々みんなでお祝いをする。新しい家が建つという事はそれぞれの地域社会にとってもめでたいこと、家はそういう存在だったんですよ」

「時代が変わるのは当たり前だけど、どこかで誰かが伝え続けないと、家づくりが『ただの買い物』になってしまう気がするんですよね。」

家は完成品を買うのではなく、たくさんの人の思いが重なり合って作られていくもの。

お清めはその原点に立ち会えたような感覚でした。

暮らす人のための家づくり

4か所目のお清めを終えると、山田社長がお施主さんご家族に言いました。

「これで、ようやくこの土地に新しい家を建てる準備が整いましたね。ここからは、構造を固めて、屋根がかかり、壁ができて、だんだん家らしくなっていきます。できるだけその過程も見てほしいからまた声を掛けますね。一緒に見にきましょう。」

建築されていく家をイメージするお施主さんと山田社長

まだ家を購入したことがない私は、お清めはハウスメーカーが淡々と進める儀式、というイメージを持っていました。

でも山田社長は、ご家族一人ひとりの表情を見ながら、言葉を伝えています。
ご家族にとっては初めて経験する家作りで、期待はもちろん、不安もたくさんあるはず。
だから山田社長の言葉はきっと頼りになるんだろうなと思います。
ご家族はほっとした表情で組み上がった住まいを見上げていました。

その様子を見ながら、山田社長はこんな話をしてくれました。

「PCの前で図面を描くことだけが仕事だと『とりあえず数字があっていればいい』という感覚に陥ってしまう人もいます。でも設計の仕事はそこに住む人の理想の暮らしを描くこと。だから現場を知らないと、本当に暮らしやすいかどうかは分からない。
風の抜け方とか、職人さんが作業しやすいかどうかとか、図面に書ききれないことがたくさんあるから。」

確かに先ほどまで山田社長は、
「この梁の高さだと圧迫感が出るかもしれない」「ここにコンセントがあったほうが生活しやすい」など、細かな気づきを自分の五感で拾い上げていました。

家づくりを最初から最後まで一気通貫で担当している山田社長だからこそ、お施主さんの暮らしを重ねながら判断できるのだろうなと感じます。

施主さんの長年のパートナー

現場を後にする前に、山田社長はあらためて、今回の家づくりのゴールについて話してくれました。

「建物ができて、引き渡して終わり、ではないんですよね。お施主さんの目的は、安心して長く暮らせること。だから、完成して数年経った後も、『あのとき建ててよかったな』と思ってもらえるようにしたいんです。」

今回訪れた保土ヶ谷の現場は、これまでに相続の問題や旧家を解体するかどうかの決断など様々な経緯を経て今日の上棟式を迎えたそうです。

お清めの儀式は、「ここから新しく出発しよう」という区切りの意味合いも込められているのだと感じました。

静かに、しみじみと家を見上げる棟梁と山田社長

追記…

先日、山田社長から写真が届きました。

取材にあたったのが8月23日。あの日から約3カ月半経過した今の現場風景です。

骨組だけだったあの姿が、こうなるんだ…

完成したら、是非もう一度見に行ってみたい。そう思う今日この頃です。

取材・記事:ローカルパワーエンジン株式会社 有山