密着取材Day2-1
はじまりはキッチン修理。相続した土地を困りごとにしない、別荘地・天城高原での家づくり

取材2日目、8月27日。この日は三島駅で山田社長と待ち合わせをして、静岡県の天城高原へ向かいました。

車が進むにつれて街並みは次第に姿を消し、視界を埋めるのは木々と山……。

建築現場への道のり、ではなく旅行でドライブ中という表現がしっくりくる道のりです。

ハンドルを握りながら、山田社長がぽつりぽつりと現場の経緯について教えてくれました。

「正直、ここは異例中の異例なんです。」

創喜さんは仕事の依頼が来ても、その場所があまり遠いとお断りすることもあるようです。その判断基準は「お引渡しの後でも何かあったときにはすぐに駆け付けられる範囲」とのこと。

それなのに山田社長がこの天城高原の現場に関わることを決めた理由は何だったのでしょうか。

きっかけはキッチンの修理

山田社長とお施主さんとのご縁は、数年前にお施主さんが自宅のキッチン棚の修理を依頼したことだったそうです。

「うちは修理もやってるんですよ(笑)。なんでも屋みたいなもんです。」

山田社長は笑いながら話してくれました。

キッチン棚の修理が終わったあともお付き合いが続き、ある日ちょっとした雑談で出てきたのが天城高原の土地を相続したという話。

使い道が分からず、このまま持ち続けるべきか、別荘として使うにしても現実的なのか分からない。

普通の工務店なら、土地活用の相談は専門外なので「それは大変ですね」で終わる話だそうです。

でも山田社長は小さな縁を大切にして、相手が抱える悩みごとをなんとかしようと行動してしまう性格。なによりその経歴は不動産仲介業から始まっているので、それほど違和感のある相談ごとだとは感じなかったようです。

「それなら一度、現地を見に行ってみましょうか」    

ご縁を大切にする気持ちとフットワークの軽さが、天城高原の計画へとつながっていったのです。

できるできないではなく、どうすればできるか

2年前の2023年夏、山田社長が池崎さんと一緒に初めてこの現場を視察したとき、想像以上に心を掴まれたと言います。

「到着した現場はただの山の中ですよ(笑)。平らなところなんてどこにもない全面傾斜地。その場所全体を樹々が覆いつくしていて、家なんていったいどこに建てろっていうんだ?って誰もが言ってしまうような場所。

だけど森の隙間から富士山が見えて、それが今まで見たことのないくらい綺麗なの(笑) 

富士山の裾野って海からのびてきてるんだってその時初めて知った」

運転しながら、なんだか楽しそうにその時のことを話してくれる山田社長。

その話を聞きながら、2日前にメールで送っていただいた建物完成時のイメージパースを思い出していました。

山田社長が着手前に描いた完成時のイメージパース

どうしていいかわからずに相談したお施主さんも、現地を見て戻ってきた山田社長があまりにも盛り上がって天城高原の話をするので、徐々に現実的に考えられるようになったようです。

だけどその土地は「富士箱根伊豆国立公園」という規制の中にあるため、何かを建てるときには自然林を守るための厳しい制限があったそうです。調べれば調べるほど、前に進めるのが難しいことを山田社長もそのあと知ることになったとのこと。

どの範囲まで工事できるのか、どんな建物なら許されるのか、そもそも建てていい場所なのか……。

「正直、建物のことを考える前に、書類とにらめっこしている時間の方が長かったですね。」

何度も何度も修正と行政とのやり取りを重ねて、建築許可が出るまで約1年半かかったそうです。

そんな長い期間、行政とやり取りして書類を作り続けてくれる設計会社があるなんてびっくりしました。

山田社長は言います。

「ここまで来たら、『できるかどうか』じゃなくて、『どうやったらできるか』を考えるしかないんです。」

相続した土地が「困りごと」になってしまう現実

場所は天城高原で約1000万㎡という広大な敷地内に存在する別荘地約2000区画のうちの1区画。山田社長いわく「約60年前に一大リゾート施設として造られた別荘用宅地分譲」だそうですが、現状はほとんど手つかずのまま今に至っているようです。

そんな経緯を伺っているとまもなく現地に到着しました。

以前はそこに樹々が茂っていたのだろうと思われるその場所が工事現場になっています。

確かに、自然に囲まれた素晴らしい場所で、隙間から富士山も見えています。

ここに到着する前には、鹿の親子も見かけました(笑)

ただ、自然しかないこの場所を相続で引き受けたら、どうしたらいいのか。

私にはまったく見当がつきません。

「相続って、必ずしも嬉しいものばかりじゃないんですよね。特にこういう場所だと、どう活かせばいいのか分からなくて、結果的に『どうしようもない土地』になってしまうことも多いんです。」

山田社長の説明を聞いて、相続=資産と単純には言い切れない現実を初めて知りました。

今回の計画のスタートはこの土地を手放すのか、それとも活用するのか、から出発したそうです。

山田社長はお施主さんと時間をかけて何度も会話を重ねて、答えを探してきたということでした。

そして、たどり着いた答えがお施主さんの別荘建築です。

仲間と打ち合わせを重ねて計画を練り上げる

企画・設計・施工と全体の工事監理に予算管理まですべてを一括して請け負うのが創喜のスタイルですが、今回は施工のみ地元(伊東市)の工務店に任せたそうです。

理由は冒頭で書いたように、この場所が「お引渡しの後でも何かあったときにはすぐに駆け付けられる範囲」に創喜がいないためです。

この工務店選びも山田社長自ら何社か事務所に飛び込んで、実際に面談したうえで決められたそうです。

この日は、施工会社の社長、現場監督、そして山田社長の3人で打ち合わせ。

ここでの山田社長の役割は業務全体の企画・設計と施工監理、そして予算管理です。

ここに家が建つのだろうと思われる場所は、大きく山が削り取られ段差を付けた形で木の板で仕切られていました。

「全面傾斜地に計画するしかないこの家は、敷地の特徴を利用してスキップフロアっていう形で設計しているんだ」

傾斜地を降りて行って現場監督と細かな確認をしながら、その合間に山田社長はそんな話を聞かせてくれますが、正直よくわかりません。

専門用語がたくさん飛び交い、お互いの意見を尊重しながら方向性を練り上げていきます。

ふと、3人は一本の大きな木の前で立ち止まりました。

敷地内に立つ、存在感のある木。

建物の配置から見て、微妙な距離感で立っています。

この木を切るか、残すか……。

「残したい気持ちはあるけど、建物との距離や根の張り方も考えないといけない。」

「切れば楽だけど、この木があるからこその景色もある。」

3人が図面と現場を見比べながら話し合っているのは、建物ではなく、その周りにある景色の話です。

「この工事でお施主さんが求めているのは、家そのものの仕様や間取りだけではなく、この自然とここから一望できる景色の中に溶け込める時間そのものなんだよ。それは日常では味わえない特別な時間だから。」

設計って「家」のことだけじゃないんだ。

初めて知ることが多すぎる一日です。

打ち合わせの中で山田社長は何度も職人さんへの感謝を口にしていました。

「依頼を受けるのは僕だけど、形にするのは職人さんだからね。」

設計や調整、近隣対応、行政手続きといった前工程を山田社長がすべて引き受け、現場では職人さんが力を発揮できる環境を整える。

職人さんたちへのリスペクトを忘れない、山田社長の仕事への姿勢を感じ取りました。

行政手続きも自ら

現場での打ち合わせを終えて、私たちは沼津にある静岡県建築住宅まちづくりセンターという場所へ向かいました。

家を建てる際は必ず行政の「検査機関」から許可を得なければならず、ここが今回の建築に関しての許認可を出してもらった機関だそうです。

建築許可を出してもらう時、まだ実際の施工会社が決まっておらず、いったんは創喜を施工会社として申請。その名義を実際に施工を担う建築会社に変更する手続きを行うそうです。

なんだか細かな話です。

窓口に向かうと、山田社長は担当者に状況を説明しながら、書類をその場で書き上げていきます。

書類を提出すると、待合スペースで数分待機。

すぐに名前が呼ばれ、窓口の担当者から「手続きはこれで完了です」と伝えられました。

ほんの数分で、すべて終了。

あまりにも早く終わったので、思わず「もう終わったんですか?」と聞いてしまいました。

「慣れてますからね。」

そう言って笑う山田社長。

設計や現場対応だけでなく、こうした行政への手続きまでスムーズに対応してしまうことに驚きです。

相続で困っている人を助けるのが自分の使命

およそ30年前「いつかはこの景色を独り占めできるような別荘を建てたい」、そんな夢を抱いて購入されたのはお施主さんの母の姉(いわゆる伯母さん)にあたる方だそうです。そしてその方の晩年のお世話をお施主さんがずっとしてきた背景もあって、その資産を引き継ぐ(相続する)ことになったとのこと。

天城高原は天候が荒れることもあるそうですが、山田社長がお施主さんと現場を訪れるときは、なぜかいつも天気がいいのだそう。

山田社長は嬉しそうに「『この土地をくれた伯母さまが喜んでくれてるんだと思うんです』ってお施主さんが話すんです。」と言っていました。

山田社長はこんなことも話されていました。

「相続っていう権利は、ちゃんとした知識を持っていないと個人ではなかなか大変なことになるんですよ。今回のお施主さんのようにどうしていいか困り果てている土地ってこの国にはいっぱいあるんです。

そういう土地に何とかいい活用方法を見つけていかなければ…昔からそう思いながら仕事をしてきました。

単なる不動産仲介業から始まりましたが、おかげさまで今では企画・設計から施工までやらせてもらって、いつの間にか僕の周りにはいろんな知識や経験を持っている職人が集まってくれました。だから、今回のお施主さんのような方のために何か役に立てることはないか、って考え実行するのも僕らの役割だと思うんだ。

そうじゃないと、この国はいつかきっと根本からおかしくなってしまうと思うんだよね」

なんだか話が大きすぎて、正直今の私にはピンとこない部分もあります。でも、今回のような現場に密着させてもらって、少しだけですがその意味が分かったような気もします。

今回、初めて建設前の現場に密着しました。

山田社長の仕事はお施主さんの想いを汲み取るところから始まり、不動産の状況、設計、施工、引き渡し後の暮らしまですべてを考え、建築に携わっていくことなんだと改めて実感しました。

まだ建物の面影もない、この現場が今後どうなっていくのか。

私自身、個人的にも楽しみです。

取材・記事:ローカルパワーエンジン株式会社 有山